中央線では高尾までは踏切がなく、踏切横断中の事故のニュースを聞くことは全くなく、逆に、最近は下火になってはいるが、ホームからの飛び込み自殺事故が以前は頻発していた。鉄道で自殺するのは、多数の利用者に不便や迷惑をかけるので、自殺するならもっと別の第三者に迷惑のかからない場所でやってもらいたい、と、自分も以前は通勤者時代に思っていた。ただ自殺者の場合、そうした是非善悪の判断が出来かねる状態になっていて、他人の迷惑を考慮できる程なら、自殺もしないだろう、だから、突発的に電車に飛び込むのは、彼等、即ち精神的病者にはある程度やむを得ない状況、多少は免責されるべき状況とも考えていた。
一昨日大月の岩殿山に登り、その帰り駅前の大きな踏切を渡った。駅に近い場所だから沢山の線路が輻輳していて、踏切の幅も広い。前日、この大月から少し先の山梨市の踏切で、電動車椅子に乗った85歳のお婆さんが、車椅子の後ろに立って、向かってくる電車に手を振っている姿が電車の運転手に目撃されているが、スピードのついた電車はそれが分かっていても直ぐには止まれない。運転手としては避けようがないのだ。
この85歳のお婆さん、足の具合がどんなか分からないが、もしも生きる意志があるのなら、這いずってでも、その場を離れ、踏切から外に出ようとするだろう。この大月駅付近の踏切にも、大きな赤字で緊急停止通報のボタンが表示してあった。少なくとも多少歩行ができるのなら、数mの距離を歩き、この停止ボタンを押すこともできただろう。そうしたら重大事故は避けられた。
車椅子の車輪が脱輪か何かして、本人はパニックに陥り、停止ボタンを押すことも思いつかず、電車が急には止まれないことも考え及ばず、ただ単に手を振っていたのか・・。
それとも、もう85歳まで生きた。十分生きた。しかも今は車椅子の生活。これ以上生きていてもそれ程意味があるとは思えない。このままいっその事、死んでしまったら楽になるかも知れない、と考えていたかどうか・・。
自宅へ一人で帰る途中だったとのこと。どこから自宅まで帰る途中だったのか、、。時間は既に夜の7時を過ぎていた。その間、家族はどうしてたのか・・。
85歳まで生きて、このような形で横死した。果たして彼女の一生、幸せだったかどうだったのか・・。