少し波頭は立ったが、揺れることも無くフェリーは大原港に到着した。乗客の大半は島に関係する人だ。
中年女性の運転で、自分と夫婦連れの二人は、もう一つの港、北原港に案内される。
二つの町はこの県道で結ばれているが、周辺は緑豊かな原野だ。
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時々霧雨が降って来たりした。
海が迫ってきている。前方の御崎の辺りが北原だ。
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初めて来る土地は何故かわくわくする。地続きではなく、船やフェリー、飛行機などで渡った先は特に期待が高まる。タイで幾つかの島、名の知れた観光島は大概上陸したが、スピードの遅いタイのフェリーボートで、長い時間を掛けて渡った先の島は特にそうだった。この西表島フェリーはタイのボートの3倍も早いスピードで僅か50分で大原港に着岸したが、初めて見る島の興味はそれでもって減じられるものではない。
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潮の干満に対応できるうように頑丈な造りの浮桟橋に降りると、桟橋の上下の動きは、よりウキウキ感を高める。凡そ20-30人の乗客の殆どは島に関係ある人で、フェリー乗り場の案内センター横にある駐車場に向かい、それぞれ駐車してあった自身の車に乗り込むか、迎いの人の車に同乗し、さっと行ってしまった。残された観光客は自分を含めて3人。二人は夫婦か恋人か、個人ツアーでこの島にやってきた。中年女性がやってきて、その二人と自分に対し、これから上原港まで行くので、トヨタ4WDに乗って下さいと言われる。自分はこの島に着いたら歩いてか或いは自転車かで、島の反対側にある上原港まで行く積りでいたが、この往復のフェリーチケットには、島内の移動の費用も含まれていたようだ。
濡れる程ではないが、霧雨のような細霧が降っていて、車も時々ワイパーを回す程度だ。島はネイチャーランド。フェリーの着いた大原港から島の北部にあるもう一つの港、上原港まで1本県道が走っているが、道路の周辺は緑濃い自然だ。綺麗に舗装された道路ではあるが、行き違う車もない。町らしい集落があるのは、この二つの港の周辺だけで、朝のこの時間、二つの町を行き来する人もいないのだろう。牛の鳴き声も、鶏の声も、犬の姿も見えない、全く静かな島にタイヤ音だけが響いて、なだらかに起伏する県道を走っていく。車は時々スピードを落とし、大きな川に掛かるマングローブの見える橋を渡る。右手には静かな海面の八重山の海。前方には石垣の於茂登岳よりも高くて深そうな山が見えている。この森の中にイリオモテヤマネコがひっそりと生息しているのか・・。自然の山野を切り開いて造られた県道を凡そ20分ほど走って、トヨタ4WDは北原港に到着した。
汽水の川だ。車はスピードを落とし、マングローブを見せてくれる。