ちゃおチャオブログ

日々の連続

不幸な隣人。元警視日本刀殺害事件を想う。

 
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世田谷の閑静な住宅街で凄惨な殺人事件が起きた。87歳の元警視庁警視が、向いの家に住む63歳の女性の首を日本刀で切って殺害し、自身もその日本刀で自決した。
 
87歳の元警察官は赤坂署を最後に定年退職し、退職後はこの地域で一時民生委員などやっていた、と言うから、付近住民には信頼され、慕われていたに違いない。元警視というから、叙勲も受けていたかも知れない。
 
彼の人生の最終盤において、よもや殺人犯の汚名を着、社会から指弾されて死んでいくことなど、彼自身も周りの人々も、全く想像していなかったに違いない。警察官として功成り名を遂げ、まっとうな余生を過ごし、安寧の中にこの世を去っていく。84歳までの彼の人生は、疑う余地もなくこの平安なレールの先の大往生だった。
 
しかし3年前、向いの家に63歳の女性が転居してきてから、彼の人生は大いに狂ってきた。それまでの平安は壊され、諍いの毎日となった。それは客観的に見れば些細なことだったが、二人にとってみれば、重大事で、抜き差しならないことだった。
 
両家を挟んで幅2m程の私道がある。狭い路地だから車も入れない、ほぼ歩行者専用の道路だ。新たに転居してきた女性は、花好き、猫好きで、その私道にはみ出すようにして沢山の植木を花段に飾り、毎日を楽しんでいた。彼女が転居前にどういう所に住んでいたのか知らないが、多分、初めての一戸建てに違いない。マンションや団地のベランダでは飾れなかった植木鉢が、ここでは猫の額ほどもない土地ではあるが、花段まで置くことが出来、目一杯の鉢を置くこともできる。喜びは大きなものであったに違いない。
 
この二人の間にどこでどんな歯車が食い違ってきたのか。今は二人とも亡くなり、想像するしか出来ないが、二人の性格の違いにあったに違いない。相合わない二人の性格。電池のプラスとマイナス或いはプラスどうしの電極が合わさるように、強烈に反発しあったのだろう。その反発のエネルギーは日に日に強力になり、遂には二つの電極共々、空中炸裂し、二人とも破滅してしまった。
 
双方譲り合えない感情。妥協できない気持ち。純粋な二人には清濁併せ飲む心の余裕がなかった。ほぼ一方的に攻撃しあい、エスカレートし、後戻りできない高見に上り詰めた。破局は目前に迫っていたが、二人にはその破局すら見えなかった。ちょっと一歩引き下がって振り返ることすら出来なかった。やむを得ない「ことだ。人間は感情の動物なのだから。
 
そうして最期の破局は一瞬の間に起こった。躊躇もためらいもなく行われた。警察に通報し、警察が到着する間の僅か1時間内の惨劇だった。それは二人の運命が3年前、ここでこの様な形で遭遇し、3年の経過を経て、今日に至る行程が予め定められていたかの如く、他者の容喙を差し挟む余地もなく、スマートに自然に達成された。恰もそれが二人の宿命であったかのように。
 
人の出会いと別れ。別れることの出来ない肉親。別れることのできない近親の憎悪。近隣なら別れることも出来よう。しかし、移動するよりも先に憎しみが増す。キリストは愛を説いた。仏は慈悲を説いた。因果応報。人は過去世の因から逃れられないかも知れない。しかし現世を生きるのは自身であり、己の善因善果、努力によっては今の環境を変えられるだろう。二人にほんの少しの自己努力があったとすれば、今日の惨劇は避けられたかも知れない。
 
聞く処によれば女性もその世界ではかなり名の知れたデザイナーとのことである。本来は二人、隣人愛によって、にこやかな日々の生活を送るべき人であった。運命とか、宿命に翻弄されてはならない筈の人であった。今思うに残念である。
 
 
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