レバノン人移民の子としてブラジルアマゾン川上流の奥地で63年前に生を受けた彼は有能だったに違いない。幼少時、生水を飲んで大変な風土病に罹患し、生死を彷徨ったが、神は見捨てず生き長られた。その後両親はブラジルから母国レバノンに戻り、彼は少年時代をベイルートで過ごし、フランスの大学を卒業し、ミシュランに入社し、頭角を現し、ミシュラン米国の責任者に抜擢され、その後、ルノーに移り、役員になり、20年前、日産が過剰債務で倒産の危機に喘いでいる中、フランスルノーから若干42歳の若さで救世主として日産にやって来た。
コストカッターとの異名を取った彼は、あらゆる債務に大ナタを振るい、人の情もしがらみもあったも無いも、バンバンはぎ取って、僅か2年足らずで、2兆円もあった有利子負債をゼロにして、その後の日産を黒字体質の会社に作り上げ、去年はルノー日産三菱の3社連合で、年間販売台数でトヨタを追い抜き、いよいよトップのVWに肉薄する、世界第2の巨大自動車メーカーを作り上げた。
これだけ見れば、彼は日産連合の最大の功労者で、実力者、歴史に残る英雄なのだが、彼がまざまざと見せつけたのは人間の二面性だった。表の顔と裏の顔。彼ほど極端でないにしても人間なら殆ど誰もが持っている裏と表の顔だ。彼は表でやって来た事は、並外れた実行力で、大日産を倒産の瀬戸際から救済し、更に世界第2位の自動車メーカーグループにまで押し上げたが、裏でやっていたことも並外れていた。企業の私物化。大企業を恰も自身のオーナー会社のごとく振舞い、役員会はあってないようなもの、監査役はいていないようなもの、監査法人はめくら同然。会社の資産、財産を自分の意のままに使い、ポケットマネーにしていた。
地に落ちたカリスマ経営者。今後裁判が始まり、数々の私利私欲が明らかになって行くだろうが、どんな顔をして日産社員や、解雇した元従業審、下請け企業の前に出てくるのだろうか。日本人だったら恥ずかしくて顔も出せないだろう。しかしそれは日本人の感覚で、これがフランスで起きたことなら、マリーアントワネットの例にもあるように、ギロチン沙汰だ。石もて放逐されて然るべき悪行だ。今日日産役員会で、彼ゴーン会長と子分のケリー代表取締役の二人が解任された。