バスは特別。一般車両の渋滞をすり抜けて、御射鹿池にやってきた。
東山魁夷の絵にあるような静かな湖面だ。
湖の解説。
思っていたよりは、案外小さな湖だ。
御射鹿池取り付け道路の山道に入ってしばらく進むと、渋滞が始まった。コロナ明け後の秋の行楽。沢山の人々が朝早く遠方からやって来ているのだ。ずっと先までノロノロ運転。が、良くしたことで、観光バスは特別待遇。道路指導員の合図で、反対車線を通行することができ、乗用車の渋滞を尻目に一足飛びに駐車場へ。自家用車の運転手、さぞかし羨ましがっているだろう。
御射鹿池(みしゃかいけ)。名前は聞いていたし、東山魁夷の絵でも見たことはある。静寂な池の向こう側を真っ白の馬が走っている。音のない静止画。馬も森も湖面に二重写しになって描かれている。実にメルヘンチックな世界だ。勿論現実に白馬がこの湖の周辺に放し飼いになっている訳ではないので、あくまで空想の世界。イメージ画だ。しかしその透明な画面の中に吸い込まれる。
今回このツアーに参加したのは、この湖が含まれているからだった。絵画の中の実際の世界を見てみたいと。現実は小説よりも希なり、或いは現実は想像を超えている、等々の譬えもあるが、東山の絵画は、技術のレベルが高く、実際の美を超えている。今目の前に広がる湖面より、絵画の方が遥かに美しい。譬えて言うなら、著名な人の肖像画が、画家によって実際の人物よりも遥かに重々しく、神々しく描かれているようなものだ。
標高1500mの森の中にあるこの湖、御射鹿池は自然に出来上がったものではなく、人工の溜め池だ。戦前、地元の耕作地への灌漑用のため池として造成された。思っていたよりは大きな湖ではなく、溜め池と言えば、その通りだろう。湖の周囲はカラ松林になっていて、これは造林ではなく、自然のものだろう。カラ松だから紅葉はしない。赤茶けて落葉するだけだ。それが又風情があって、良いという人もいる。東山が絵画のモチーフに何故ここを選らんだのか、自分は知らないが、多分その名前「御射鹿池」にあったのではないかと思う。ここは諏訪大社に奉納する鹿を射る聖域であり、「御射山御狩神事」から来ている。ただ彼の絵の中では白鹿ではなく白馬だったが・・。
周囲はカラ松林で、紅葉ではなく、赤茶けている。
湖には魚が住まず、波も立たずに鏡のようだ。
ああ、あの辺りを魁夷の白馬が逍遙していたのだ・・。