ちゃおチャオブログ

日々の連続

トランプシンドローム。アメリカンマジョリティーの漂流。

イメージ 1



殆どの誰もが想定しなかったトランプが米大統領に当選した。事前の世論調査では僅かではあるがヒラリーが上回っていて、米国民のみならず、選挙を見守っていた諸外国人もヒラリーが次期、女性初の大統領に就任するものと想定していた。トランプの言っていることは勇ましいが、現実政治に引き戻した際の実現可能性に疑問を持つ国民は多数を占めていると考えられた。極端な政策変更は聞こえは良いが、人々はそれよりも安定性を求めるだろう、と思われていた。しかし、現実の選挙はそうはならず、大半の人々が夢想すらしなかったトランプが次期大統領になる。

選挙の結果を見ると、各州選出の選挙人数は確かにトランプがヒラリーを上回ったが、総投票数からするとヒラリーの方が上だった。だから、この大統領選が英国国民投票のように、選挙総数から勝敗を決めるものであれば、ヒラリーが多数を取った次第で、大統領になるべきだが、米国大統領選挙制度は英国国民投票とは異なっていた。選挙結果を逍遥と受け入れたヒラリーの態度は立派であり、自身としての反省、即ち慢心の裏返しの気持ちはあったかも知れない。

しかし怒りが収まらないのはヒラリーに投票した人々、その多くはヒラリーフアンというよりか、反トランプ感情の投票行動だったと思われるが、選挙結果が明らかになった直後から各地で反トランプデモが発生し、米国大統領には相応しくない、と立ち上がっている。しかしこれは後の祭り。覆水盆に返らずのたとえ通り、選挙が終わってからこんな運動をしても始まらない。こうしたエネルギーがあるとすれば、それは選挙中にぶつけるべきだったのだが、多くの国民が楽観視していたように、この様な過激な運動をしなくても、ヒラリーは「自動的」に時期大統領になるだろう、との甘い予測があった。(彼女自身もそう思っていた。)

選挙結果から見ると、今の米国は反トランプか、トランプ派かに二分されているようであり、それは親ヒラリー反ヒラリーではなく、トランプを軸とした動きになっている。
トランプの個性、強力な磁力が求心力と反発力を高めているのだが、こうした政治手法は将にポピュリズムである。人々に夢を与えるだけなら害もない。しかしその夢を実現可能と信じ込ませ、もしも間違った方向に国家、国民を導いて行こうとするなら、大きな問題が生ずる。米国ファーストは聞こえは良いが、それはドイツ純血主義、ナチ思想にも通じるものである。政治家としての未知数のトランプがそうした方向に進んで行くのか、現実政治に気づくのかこれからの問題であるが、いずれにしても米国国民はそうした危険性もはらんでいる人物を今回大統領に選んだ。

今回米国民の投票行動には、当方にとって不明な点が幾つかあるが、その一つが、テレビマスコミ等で余り報じられていない「投票率」である。特に接戦州と言われた中西部の各州投票率は大いに興味ある点で、これ等諸州をことごとく勝利に収めたトランプ陣営だが、投票率が現状よりも上がっていれば、どうであったか。全体の投票総数がヒラリーが上だった訳だから、もしも投票率が100%だったら、負けた幾つかの州を取り戻せたかも知れない。が、それは机上の空論で、妄想に過ぎないだろう。なぜならこれらの州は「Rust Belt」地帯であり、現状のオバマ政権には賛成せず、いずれにしても投票所へ足を運ぶとすれば、「民主党の」ヒラリーではなく、トランプに投票したに違いない。反民主党の流れは、大統領選と同時に行われた上下両院選挙で、双方共に共和党議員が多数を占めたことからも窺える。

人々は変革を求める。今や10組に一組の夫婦が離婚するように、現状に飽き足らなければ足りない程、現状からの脱却、新たなパラダイムを求めるようになる。「Rust Belt」の住民は特にその思いが強く、大統領がトランプになれば、現状を打破し、新たな展望が開けるに違いないと。それは「錆」のようなものであり、一旦思考の中に取りついた「錆」を落とすのは、ヒラリー陣営が如何に大々的なキャンペーンを張ったとしても、中々そぎ落とすことは困難で、今日の結果を変えさせることは難しかったかも知れない。

ただ、それでも、そうであっても、アメリカの常識、モラル、オーソドックスはヒラリーを勝たせる、と多くの国民が思っていた。だが、現実にはそうはならなかった。今回の現象はトランプシンドロームであり、多数の国民は彼の口車に載せられ、幻想を抱き、思考・判断能力を停止し、国民のマジョリティーが漂流を始める第一歩となった。今回の大統領選が米国愚衆政治の第一歩とならないことを願うだけである。


イメージ 2