ちゃおチャオブログ

日々の連続

宮古の4日間(8)ホテルでの死ぬ思い。

  • ホテル1階の食堂へ通じる廊下。

  • 食堂には同行者はまだ誰も来ていなかった。

トーストと味噌汁、ゆで卵。フリーサービスだ。

 

昨夜は実際死ぬ思いをした。案外死は身近な場所にあり、案外簡単に死んでしまうのかとも思った。明日の新聞には小さく記事が載って、東京の新聞にも小さく出るかも知れない。「東京の旅行客、お風呂場で溺死」と。後先を考えたのはそれ位で、同行者や家族の慌てふためく様は想像できなかなった。

昨夜部屋に戻り、風呂上がりの方がビールが美味しいと、先に風呂に入ることにした。気持ちよくバスタブに漬かり、さて、上がろうとした時に腰が立たない。バスタブの両側縁を掴んで、思いっきり力を入れて腰を浮かそうとしても腰が上がらない。バスタブの幅が狭く、両足を開いて足に力を入れることができず、踏ん張りが効かないのだ。いろいろ体の向を変えたり、縁に腹ばいになって滑り出ようとしても、上体だけが外に出て、下半身が上がらない。洗面台とか水道管を掴んで引ぱっても、下半身が持ち上がらない。万事休すだ。酔いは一辺に覚めてしまった。

兎も角、このままバスタブに漬かっていたら死んでしまう。お風呂の湯を抜き、タブ横のベークライトの壁面をドンドン叩く。大きな声で助けも求める。だが、シンとして全く反応がない。昨日、5階のシングルを当てがわれ、それが不満で4階のこのダブルの部屋に移ったが、4階には誰も泊り客はおらず、しかも部屋はエレベーターから一番遠くの角部屋になっている。壁のベークライトを思いっきり叩けば、5階にいる同行者の誰かが気付いてくれるだろう。身体が冷えないように、時々シャワーを掛けて、繰り返し大声を出して、壁面を叩く。どこからも、誰からも反応はない。ベークライトのバンバンという音が空しく響くだけだ。・・ああ、このまま死んでしまうのか・・。焦った。

あっけない死に方。死はどこにでも潜んでいる。まあ、兎も角、このまま死なないように、朝まで頑張るしかない。朝になればフロントに降りてこない自分を心配して、同行者の誰かが部屋までやってくるだろう。それまで生きていれば助け出されるし、このまま死んでしまえば、そういう死に方もあるだろう。兄は10年前に入浴中に死んだ。兄弟揃っての入浴死か・・。山では3回死ぬ思いをした。しかしその3回とも何とか生き延びてきた。簡単には死ねないぞ。段々睡魔も襲ってきた。壁を叩く力も弱ってきた。それでも時々は叩き続けよう。ひょんな機会に助け出されるかも知れない。・・・

と、どれ位の時間が経ったのか、ドアを叩く音がする。外から「お客さん、大丈夫ですか」との男の声もする。イヤー、助かった! ホテルマンが来てくれたのだ! 「助けて下さい! 助けて下さい!」大声を張り上げ、風呂に漬かっている事を伝える。ホテルマンが入って来て、後ろに回り、背中を抱えるようにして、バスタブから引き揚げてくれた。「ああ、タブに嵌っていたんですねえ」。イヤー、九死に一生、ホテルマンに感謝を伝えようとしていたら、彼はそのまま何事もなかったかのようにそのまま部屋を出て行った。

バスタブの幅は50cm足らず。両足をやや狭めて湯に浸かったが、入った時にやや幅が狭いと感じたが、それがこんな最悪の結果になったとは・・。足腰が弱っている高齢者には狭いバスタブは危険だ。酒に酔っていたとは言え、自分がこんな目に遭って、「嵌って」しまったとは・・。風呂上がりのビールなどもう飲む気にもならず、そのままベッドの上で横になっていたら、疲れが出てきたのか、そのまま寝込んでしまった。翌朝は昨夜の出来事などなかったかのように、食堂に降りて、トーストとゆで卵、コーヒーを飲んだが、その間、同行者は誰も降りてこなかった。フロントで昨夜の男性を尋ねたが、フロント女性は誰だか分からない、との返事だった・・。お礼の言いようも無かった。

 

  • 奥の正面が食堂。

     

    朝、フロント女性に昨夜の男性の事を聞いたら、知らない、との返事だった。


    部屋はこんな感じで、左手にバスルームがある。