先日90歳で亡くなった推理作家の森村誠一に「人間の闇」と言った題名の小説はないが、彼は「人間の条件」とか、人間の心の奥に潜む闇を抉り出して、ベストセラーの推理作家になった。晩年は痴呆症を患っていたようだが、ほぼ長寿を全うしたと言える。
彼は俳句にも長けていて、自身が住んでいた熊谷の自宅を俳句館として公開している。
同じ熊谷出身の俳句の大家に金子兜太がいて、戦前の海軍経理学校では中曽根康弘と合い前後する。金子も100歳まで生きて、晩年、俳句を良くした中曽根と対談が行われたが、同じ戦中を生き延びた二人、歴史観にはかなりの違いがあったようだ。その金子より10歳ほど若い森村も強烈な反戦家で、数々の小説に残している。終戦の前日の深夜、B29に急襲された熊谷大空襲、市民数百人が犠牲になっが、その時金子は南洋島にいたが、森村は旧制中学で、その悲惨な状況が深く心に刻まれた。それが彼の小説の原点とも言われる。ゴンタさんの青学の大先輩だ。
何かの大きな出来事が心のトラウマとなり、良い意味でも悪い意味でもその後の人生を方向付けることになる。写真で見る限り、幸せそうな3人家族。一家の主は著名な精神科医で、収入も多く、札幌郊外に4階建ての自宅も所有している。その一人娘は何不自由なく育ったのだろう。親族の話によれば、過保護と思える程に溺愛されて育った。どんな歯車が途中の人生を狂わせたのか、中学の頃より不登校になり、結局高校も中退したようだ。人生の歯車が途中で狂ってしまった。精神科医の親としても、その軌道を外れた歯車を元に戻すことは出来なかった。
その29歳の娘、田村瑠奈と恵庭市の62歳の被害者浦某との接点は何だったのか、未だマスコミの報道は無いが、昨日逮捕された母親の話では、娘と浦との間に「トラブルがあった」と親戚筋に話しているようだ。何のトラブルなのか、現時点では明らかになっていないが、殺しても殺しきれない憎しみの対象だった。浦は恵庭市内で妻のいる家庭持ちだったのだが、女装が趣味で、そうしたイベントに多く参加していたようで、この29歳の娘とも、そうした関連で知り合ったと思われる。
ただこの田村家族が家族全員でこの男を憎み、殺害に至る事前の謀議、所謂家族会議を行い、殺害已む無し、の結論に至ったのは、この男の娘に対する世にも憚れるような悪行、殺されて当然との家族間の共通認識があったのだ。
首切り殺人。醜悪で忌まわしい事件ではあるが、こうされた被害者にもそれなりの原因があったのだろう。単なる行きずりの殺人、電車内での凶行被害者、アキバ事件のs通行人被害者ではないのだ。
幸いに容疑者は医師と言う知的人間だ。人間の心の中に潜む深い闇。事件の背景を大いに語ってもらいたい。