少し時間が経ってもう既に旧聞に類するが、先月の靖国神社への１６０数名もの国会議員が大挙して押しかけた「事件」があった。本来は戦争で亡くなった英霊に対する慰霊祭への参席だから、単なる一つの出来事に過ぎないが、世の一般人から見たら、「事件」と映る。「時流に乗り遅れるな」、と我も我もと押しかけた売名行為の図である。
靖国神社は明治の鎮魂社以来、国の戦争で亡くなった英霊を祀る神社として、戦後もＡ級戦犯が合祀されるまでは、昭和天皇の毎年欠かさずのご臨席を賜っていたが、合祀以降は一度もご参拝されていない。平成天皇も当然ながらそれを踏襲し、現在に至っている。
Ａ級先般は連合国の軍事裁判により処刑されたものだが、本来、日本人の手により糾弾され、処罰されなければならなかった戦争犯罪者であり、国の方向を見誤り、間違った方向に導いて行った結果、３００万人を越える将兵、国民の命を犠牲にしたのだから、その敗戦結果は裁判以前の問題で、戦争終結時には自ら責任を明らかにすべきであったが、東条などはピストル自殺を図ったにも拘わらず、命が惜しくなったのか、未遂に終わっている。
巣鴨プリズンで処刑された１２名の絞首刑者の中に、戦争指導者とは言えない、単に開戦の尚書に署名をしただけの外務大臣もいたが、そうした僅少の例外を取り上げ、勝者による軍事裁判は間違いだった、と非難することは当たらない。多くの戦争指導者はイコール戦争犯罪者であり、結果責任を問われれば絞首刑も当然のことだった。戦後の日本人にとって不幸だったのは、そうした戦争犯罪者の総括を日本人の手でやらなかったことであり、数多いる歴史家もそうした糾弾を行なわなかったことである。
もしも日本人自身の手により今次第二次大戦乃至太平洋戦争の戦争指導者への総括が行われ、戦争犯罪者として処刑されていたとしたら、そうした戦犯はよもや靖国に合祀されることはなかったと思う。明治の元勲西郷隆盛が国賊として合祀されていないのと同じ理由でだ。そうして戦争犯罪者の合祀されていない純然たる英霊の御霊に対しては、天皇陛下も従前通りに今でもご臨席され、且つ、大挙押しかける国会議員団も誰からもどこからも指弾されるようなことはなかっただろう。
近隣諸外国より、日本国は先の大戦の反省が足りない、歴史認識が浅い、と声高に批難されているが、日本人自身のこうしたなあなあ主義により、自己の変革を他人の手に委ねた結果、日本人自らが行うべき過去の清算が充分に行われないまま今日に至り、あまつさえ先般の国会議員１６０余名の見苦しい醜態を世界各国に晒すことになった。
個々人の議員が票目当てに参席するのは職業の成せる業として多少は許すことも出来るが、その中に国務大臣、就中、政府を代表する副総理が含まれていたことには仰天する。麻生氏は自身の立場を顧みず、何と考え参列したのか？ 或いは全く何も考えもせずに、闇雲に、流れに流されるがごとく列席したのか？ 自身が真に御霊に祭礼したいとの気持ちがあったのなら、国務大臣職、副総理を辞任した上で参列すべきだった。
それが７０年前、３００万人の無辜の将兵を死地に追いやった国家犯罪の、その中枢にいた犯罪者を祀る神社を、現政府の要職にある立場の人間は弔うべきでない、と認識するのは最低の矜持だ。流石に安倍総理は、多分総理ではなく、一議員であれば行ったであろう靖国へ、立場を弁え、国の指導者として自己規制し、玉串のみの奉納で収めたのは、立派な立居振舞だった。
麻生氏もそうした総理の心情を忖度し、自己規制すべきだった。諸外国から反対されるから反省するのか或いは開き直るのかは別にして、 嘗て国家としての犯罪を犯し、処刑された戦犯を祀っている神社に、現国家の枢要な人間としてこうした例大祭には参席すべきでない、と考え自制すべきだった。 浅はかと言わざるを得ない。
女性議員の高市などは自民党総務会長という重要ポストにありながら、靖国参拝に対し、大声で擁護し、その醜悪な顔貌をテレビの前にさらけ出しているが、立場を弁えなさい、と言いたい。大声を出せば出す程、そのマイナス効果は安倍総理に返ってくるのだと知るべきである。チーム安倍の面々は、浅慮によって総理の足を引っ張らないよう自戒すべきである。
同じ様な浅はかな言動で今社会を賑わしている政治家に橋下がいる。現代のニューリーダー、次代の総理候補がこの様な言動で自滅して行くのは忍びない。今日の結果は彼自身のキャリバーを露呈しているものであるが、このまま突き進めて行ったら、自壊の道が残されているのみである。早い段階での軌道修正が求められるものである。 真に国民、国家のことを最優先で考えられる政治家に成長しようとするのであれば、変えるのは今が最後のチャンスと思うべきである。
