猿沢の池からこの石段を登ってやって来たのは過去2回以上はある。
南円堂ともお別れだ。
境内の鹿ともお別れだ。
この町で鹿は大事にされている。神の使いだ。
南円堂での御朱印を戴き、先刻奈良駅前からバスでやって来て下車した市役所前バス停まで戻ることにした。本当に足が元気だったら、猿沢池を1周したり、北円堂も立ち寄ったりもできたのだが、もう年寄りだ。中金堂に今現在どんな仏様が安置されているのか知らないが、その正面でお参りし、再度五重塔と東金堂に拝礼し、もう殆どここには来ることもないだろう興福寺五重塔に別れを告げる。
市役所前バス停に向かう境内の途中に国宝館がある。ここには国宝の阿修羅像が展示されている。乾湿造りの仏像で、作者は誰か不明であるが、三面六臂の像は以前から注目されていた。白州次郎の奥さんで作家でもある白州正子が以前「両性具有の美」という本を書き、その中でこの仏像は男性の顔と女性の顔、両方の性を持っている不思議な印象の仏像だ、と高く評価していた。仏さまには元々性別は無く、観音が男か女かは昔から議論の的になっていたが、本来はそうした詮索をすべきではないのだ。
この本を読んで暫く後、興福寺展が上野の博物館で開かれ、その時のメインの展示品はこの阿修羅像で、自分も本に啓発されて上野まで足を伸ばした。成程、男性か女性かどちらとも判別できない青年の顔立ち。両方の性を併せ持った仏像だとその時思った。今回再度拝観することも思ったが、矢張り足の疲労度を思った。
最初にこの境内に足を踏み入れた時に沢山の鹿が屯している場所があったが、鹿は今も尚相変わらず午睡のようにのんびりしている。奈良で鹿が尊ばれるようになったのは、天智天皇との故事があるとどこかの本で読んだが、ここにしても東大寺、浮御堂~春日大社にかけての無数の鹿の群れ。この町では鹿は神の使いだ。
中金堂横にある興福寺境内案内図。
再び県庁前のバス停にやってきた。当初、市役所かと思ったが、これは奈良県庁だった。
次に市内循環バスで向かったのは西ノ京にある唐招提寺。
ここは観音霊場ではないが、境内にある瓊花(けいか)の花を見たいと思った。