先日のアジア4か国旅行に出発する直前、東図書館で借りた大石英司氏の「尖閣喪失」(中央公論社)。丁度その直後に香港の活動家が漁船をしたて、尖閣列島、魚釣島に強行上陸する事件が起きた。本は途中まで読んで、その後アジア旅行に出発したが、立ち寄った上海、シンガポール等では、宿泊したホテルのテレビでこの事件が大きく報道されていた。
上海は当然のことながら、旅行したシンガポール、マレーシアは広い意味の大中華圏で、歴史的にも経済的にも中国との結びつきが強く、今や中国人、中国経済を抜きに国自体が成り立たない関係になっている。従って、各地で報道される中国語放送は、言っている意味は分からないまでも、概ね中国寄りで、強行上陸したリーダーらしき男は連日英雄の扱いで画面に大写しされていた。
処でこの本の著者大石英司氏について、詳しい経歴は知らないが、後書きによれば、1961年鹿児島県鹿屋生まれとあり、現在52歳である。鹿屋生まれが関係しているかどうかは知らないが、彼の著書の幾つかを当たると、航空機物、軍事オタク物、等の著作が多く目に付き、この本の中でも、後半部分、中国正規軍が魚釣島に上陸して以降の内容は、石破茂を模したと思われる総理の元で、軍事用語、軍事的状況が事細かく展開されている。
それは兎も角、この本の内容は、丁度今問題になっている尖閣の時宜を得た内容であり、近未来の尖閣の状況を暗示しているものである。即ち尖閣は中国軍によって強行的に占領され、日本が放棄せざるを得ない状況を描いている。
最初の書き出しは、元中国で暗躍した中国マフィアの親玉が半ば亡命していた米国、カナダより本国に強制送還されるところから始まり、彼が亡命する以前に本国で暗躍していた時代に交流のあった現共産党政権の主席を始めとする幹部連中との黒い交わりを、自身が強制送還された時の保険代わりとして自伝の中に暗号形式で書きとめられていて、チャイナスクールの現審議官がその暗号を読み解くところから始まるが、興味深い書き出しだった。
その後、現実に中国正規軍が島を乗っ取る作戦に出、日本の保安庁、海自は適切に対応するものの、中国に経済的弱みを握られた米国政府は日米安保条約を反古にする形でこの事件を傍観し、否むしろ中国側の立場を取りつつ、海自にしても空自にしても戦力に於いては中国を圧倒する力を持ってはいたが、米国の支援なしに行動を取ることは、単に島だけの問題ではなく、世界経済に与える影響、強いては国内の困窮、等を考慮し、石破に擬する総理は苦渋の選択として尖閣を中国に譲り渡すことにしたが、最後の最後まで、この本の書き出し部分である暗号解析により、現中国政府を大胆な挑戦から引き揚げさせる結果を期待したが、それも無理なことで、島の占領の2か月後、主席が病気を理由に突然退任した、だけに終わった。
日本は国の守りとして、日米安保条約を盤石なものとして信奉し、如何なる事情があっても米軍は日本を守ってくれるものと、盲目的に信じてきたが、この本の中では、米国と言えど、経済力に握られた巨大な中国の前に、日本を見捨てざるを得ない状況が赤裸々に記載されていた。
現実にこのような問題が起こらないことを願う国民の一人であるが、中国は彼等の論法で言えば、尖閣は中国固有の領土であり、今現在日本が不法に実効支配している、と国民の大多数は考え、こうした香港の活動家等の行動を支持しているが、そうした彼等の今後の誘惑を断ち切るためにも、又、この本の主題が現実のものにならない為にも、日本国政府は今回の香港人の不法侵入を契機として、国防の為の海自、保安庁等の恒久的基地を構築すべきである。国を守ることが自衛隊、国防隊の存在理由であるから、現政府は第二、第三の不法侵入者が押し寄せてくる前に、然るべき防衛策を制定すべきである。