夕食を食べにホテル近くを歩いたが、適当な店が見当たらない。
昨日行列を作っていたサンドイッチ店の前を通ると、夜も相変わらず列で並んでいる。そうだ、今晩はこのサンドを買って、最後の晩餐としよう。
朝予約していたタクシーで空港へ。20分ほどで着いた。
3日間のサイゴン滞在は長いようで短い。あっという間に過ぎた気もするが、しかしその反面、ツアー旅行のようにスケジュールで縛られていない自由な時間もあって、僅かな期間だったが、ゆっくり、のんびりもできた。今回旅行の最大の目的だったベトナム戦跡訪問も果たすことは出来たが、しかしそれはかなり期待外れのものだった。もっと荒々しい戦場跡が見られるかと思っていたが、全体が観光地化され、整備され、50年前の戦争の凄まじさを体験することは殆ど出来なかった。
それはラオスのジャール平原でも、カンボジアのコンポンチャム、40年程前日本人選挙監視員が地雷を踏んで死んだ後日本政府によりその近くに建てられたアツ小学校から更に奥地に入ったジャングルの中の空爆跡地、メコンデルタミトーの田んぼ地、カムラン湾ダナンの空港跡地、等々、どこを見ても同じように傷跡は殆んど消え失せていて、50年の歳月は忌まわしい過去を目の前から消し去っていた。サイパン、キヤンガン、沖縄は更に75年も前のことで、今はもう殆ど風化し、痕跡すら残されていなかった。人は過去を忘れるから、又再び戦争に走るのか・・。広島の原爆ドーム、長崎の平和の鐘は人類共通の遺産として永遠に残しておかなければならない。
昨夜はバスターミナルから一旦ホテルに戻り、明日の空港行きのタクシーを予約する。離陸時間は8時。6時までに空港へ行くので、5時に迎えに来てもらう。空港までは2000円程度で行けるから、市内から近い場所にあるのはラッキーだ。夕食を食べにホテル近くを歩いたが、どこも複数の客で、単独客が入れるような店は見当たらない。簡易食堂のようなものがあればよいのだが、夜はそんな店は開いていない。昨日、行列を作っていたサンドイッチ店の前を通ると、夜の時間も相変わらず列を作っている。人気店だ。そうだ、サイゴン最後の夜、このサンドで晩餐としよう。
朝5時前にロビーに降りると、タクシーは既にホテルの前で客待ちしている。直ぐにチェックアウトし、タンソンニャット空港へ向かう。これから活動を始める通りには車も少なく、シャッターも下りたままになっている。渋滞も信号待ちもバイクの騒音もなく、タクシーは街中を疾駆し、20分ほどで空港に着いた。タンソンニャット。ベトナム戦争の最終場面で、この空港まで砲弾が撃ち込まれ、ベトコン兵がなだれ込み、戦争は終わった。知人の一人は、空港を使用できず、米国大使館の庭から飛び立った大型ヘリコプターに乗せてもらい、洋上の駆逐艦に命からがら逃げ延びた。あれからもう50年経っている。今は近代的な空港の装いで、そんな昔の忌まわしいイメージは跡形もなく、綺麗にぬぐい去られている。
タンソンニャット空港。以前一度ダナンから乗った国内線で、この空港に降りた。2回目だ。
今日のJAL機。
4泊5日、サイゴンを後にする。